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高橋美登里礼法きもの学院

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2015.02.23

“仕事で自信をつけていく”というのは難しいですね。仕事をはじめたばかりの頃は、技術も知識も未熟な訳で、その中で、自分の立ち位置をしっかり見極めるのは本当に難しい事です。

私がこの仕事をはじめたのはまだ20代でした。周りの同業者を見渡しても、同年代はいません。もちろんアルバイト程度に”きものの先生”をしている人はいましたが、看板を掲げてこの仕事で生計を立てている人はみな40才代以上でした。ある程度の年齢でないと、貫録がなく、信頼されないんですね。特に企業に入ろうとすると、担当者は自分の父親くらいの年齢の方ですから頼りなく見えるのでしょう。

仕事をはじめたばかりの頃、仕事帰りに買い物に立ち寄ったお肉屋さんの奥さんに「まぁ、きれいにきものを着て!お母さんに着せてもらったの?」と言われ、地の底までヘコみました。「あ~、私は、“きものを着ている”んじゃなくて“きものに着られている”ように見えるんだなぁ」と。なので、その頃は1才でも老けて見られるようにと、地味な着物を着てヘアスタイルもわざと渋くしていました。「はやく40才になりたい!」と願う、本当に自信のない暗い”きものの先生”でした。

そんな私を救ってくれたのは、生徒の何気ないひと言でした。

彼女は銀行にお勤めしていて、窓口業務でした。私はその銀行に仕事用の口座を持っていましたので、着物を着て入金しに行った時、彼女が応対してくれたのです。そして彼女は「きもの教室をなさっているんですか? 私に教えていただけませんか?」と言い、私の生徒になりました。
彼女がお稽古に通うようになって半年程過ぎた頃でしょうか。雑談の中で「奇妙なご縁だったわね」という話しになり、その時彼女がこう言いました。

はじめて先生を見た時「なんて若い先生なんだ!」とビックリしましたが、「こんなに若くても着物の先生をしている人がいる。 私も頑張れば先生になれるかもしれない。 絶対この若い先生に教わりたい!」と思ったんです。

私、この言葉を聞いた時、頭をハンマーで殴られたような思いでした。私にとって今までマイナスでしかなかった”若さ”はプラスに転化できるんだ!若いが故に受けたと思っていた数々の事は、実は若い事で卑屈になっていたが故に受けたのだ。

私は、彼女のひと言で自分の立ち位置が明確になりました。

ありのままでいい

という事です。地味な着物を着る事も、渋いヘアスタイルにすることもない。私が今、着たい着物を、私がより私らしくいられる着物を着ればいい。それが、唯一最大の広告になるんだ。

きもの教室10周年記念パーティーをした時、彼女にその事を話すと「あら、私、先生にそんなことを言いました? 覚えてませんけど、でも、そう思っていましたよ」

人の生き方を変えるほどの出来事なのに、案外そんなものかもしれませんね。
今でも彼女に感謝しています。