2016.02.01
きもの教室の先生や着付け師になるには、必ず資格を取らなければならない、ということはありません。
もともと着物は、洋服がなかった時代には日常で着ていたもの。もちろん学校なんてなかった訳で、各家庭で、大人が子供に食事の仕方を教えるように、着物の着方を教えて自然に身につけさせていたものでした。ところが日常着が洋服の時代になり、家庭で親が子に教える事ができなくなったので、きものの学校が必要になったのですね。
で、きものを勉強したい!と思った場合、たくさんあるお教室や着物の学校の中から、自分で選んで習いに行く訳です。
私の場合、先輩に勧められて、先輩が習っていたきもの教室に行きました。当時は、着物の先生になりたい、という気は全くなく、1人で綺麗にきものが着られるようになったら良いな〜、という軽い気持ちでした。
入ってから、そのお教室は「装道きもの学院」(現:装道礼法きもの学院)を卒業された先生がなさっているお教室だと知りました。装道礼法きもの学院は、単にきものを上手に着られるようにするとか、人に着せられるようにする、という事ではなく、きものの指導者(先生)を育てる、という事に重きをおいている学校です。
お稽古を続けていくうちに、どんどん着物が面白くなり、「せっかくここまで勉強したのだから」と、資格を取ってみたくなりました。
そして、公益社団法人全日本きものコンサルタント協会が認定する「きものコンサルタント」試験を受けました。この試験は、筆記と実技があり、実技試験は、まさしく“きものの先生”になるための試験課題です。
決められた時間内に留袖を着付けるのですが、単に綺麗に着付けるのではなく、“きもの講習会で講師として留袖の着せ方を指導する”という設定で、来てくださったお客様(生徒さん)に留袖の着付け方を説明しながら、モデルさんに着せつけてゆきます。かなり練習をしないと、手を動かすと口(説明)が止まり、口を動かすと手が止まってしまいます。口と手を同時に動かしながら、自分の口から出た言葉の通りに着付けてゆくのは、やはり大変。「半衿は2センチ出します」と言いながら、「あ〜1センチしか出せなかった〜」とか。やっと口と手が同時に動かせるようになったと思ったら、今度は夢中になり過ぎて、お客様(生徒さん)に背を向けていた、なんて事も。
そんなこんなできものコンサルタント資格を取り、その後、プライベートも紆余曲折あり、27才の時にもう一度きものの勉強をし直して「きもの教室」をはじめたのでした。
この記事の冒頭に「資格はなくても先生になれる」と書きましたが、私の場合は、資格を取らなかったらなれなかっただろうな、と思います。資格試験の勉強を通して、きものの先生というのは、単に技術を教えるだけではなく、「先生のように美しくきものを着こなしたい!」と憧れを持って見ていただけるようにならないといけないんだ、と言う事を学んだ気がします。さらに、“上手にきものを着る事ができて着物の知識が豊富にある”という事と、“きものを知らない人に順序立てて上手に教えられる”という事は、必ずしもイコールではない、という事も、経験を通してわかりました。
そして一昨年、偶然、着付け師の国家検定がある事を知りました。この国家検定に合格しなければ着付け師としてお仕事が出来ないという訳ではありません。職業としてお客様にきものを着付ける着付け師の技量を測る検定で、合格したら、着付け技能士と名乗れます。
階級は2級と1級があり、筆記と実技があります。実務経験に応じて受けられ、私の場合は実務経験がクリアできていたので、2級を飛ばしていきなり1級を受ける事にしました。
昨年6月に筆記試験がありました。この筆記試験に合格した人だけが実技試験を受けられます。私の印象ですと、きものコンサルタント試験より少し簡単かな?という感じでした。
お教室で、きものコンサルタント試験を受ける生徒さんの指導をしていますので、この筆記試験に落ちたらシャレになりません。満点目指して受験しました。結果合格でしたが、点数は記載されていませんでしたので、何点だったのかはわかりません。
そして実技試験。昨年秋に受けました。1級実技試験は、時間内で、同行したモデルさんに、振袖・ふくら雀を結ぶというもの。もちろん無言でOK。同年代のきもの仲間にモデル役をお願いをし、いざ、会場入り。会場に行って初めてわかったのですが、この試験を受ける方は、ほとんど美容師さんなのですね。受験者が連れてきたモデルさんは、ビシーッと振袖のヘアスタイルで髪飾りも完璧。そりゃ、プロですものね。
そして、おそらく、同じ美容室の仲間が、毎年順繰りに受けるのでしょう。先に受けた先輩から色々聞いて来ているらしく、皆さん本当によくご存知でした。
今年1月末、合格通知をいただきました。これで、晴れて1級着付け技能士です。
きものの先生の資格と着付け師の資格。
私は、きものの先生の資格を最初に取ってよかったな、と思っています。きものの先生の資格があったからきもの教室を開く事ができ、着付け師として、人様にお着付けするお仕事もさせていただいていますが、初めに着付け師の資格を取っていたら、着付けのお仕事はしていたかもしれませんが、きもの教室は開けなかったと思います。
美容師としての幅を広げるために着物も、とお考えの方は、着付け師検定を受けられた方が近道ですね。
が、いずれの資格も、取得して初めてスタートラインに立てる、というだけで、その後の経験が大きな財産になります。